俚斗は考えるように数秒無言になって、それからゆっくりと震える瞳で私を見る。
「ビックリしない?」
「大抵のことならしないよ」
「本当に?」
「うん。だから焦らさないで早く言って」
急かしてるつもりはなかった。それでも俚斗の様子がいつもと違うから、きっとなにか理由があるんだろうなって。
好奇心だったかもしれないし、探求心だったかもしれない。
少なからず私は俚斗の震える瞳の奥にある〝なにか〟を見たいと思っていた。
「俺ね、病気なんだ」
……ドクンと、心臓が動揺する。
「あ、でも病気って言っても特殊っていうか、世間では〝奇病〟って言うらしいんだけどね」
「……奇病?」
「うん。アイスヘイルシンドロームって知ってる?」
聞き慣れない言葉はまるで外国語を話されるみたいに理解できなくて、「アイス……えっと、なに?」と聞き返すことで精いっぱいだった。
「アイスヘイルシンドローム。漢字で書くとこう」
俚斗はしゃがんで、その長い指で地面に文字を書いた。
――〝氷霰症候群〟
やっぱり見慣れない文字は頭の中を通りすぎていくだけ。