もしかしたらさっきのことを気にしているのかもしれない。

私は全然大丈夫なのに。


観光客が帰ったあとは嘘のように池の周りに人がいなくなって、どこからかユリカモメが二羽飛んできた。

池の割れている氷を狙ってそこからくちばしを水に付ける。


ここの池は昔、十勝岳の火山災害を防ぐために人工的に作られたものだと聞いたことがある。水に硫黄が含まれてるから魚はいないって誰かが言っていた気がするけど、よほどあの二羽はお腹を空かせているのかもしれない。


「さっきの、本当にごめんね」

そんなユリカモメを見ながら俚斗がまた眉を下げた。


「そんなに謝らないで」

たくさん謝られるともっと気まずくなる。べつにいつもみたいに「あはは」と無邪気に笑ってくれたらそれでいいのだ。


「……俺さ、ちょっと普通の人とは違うっていうか、小枝に触られたくないとかじゃなくて、俺に触れたら小枝を傷つけちゃうと思って」

「……どういうこと?」

手すりを握る俚斗の手が自然と強くなる。

私の指先は寒さで赤く悴んでいるのに俚斗の指は本当に真っ白で、雪の色が負けてしまってるぐらい。