雫を弾こうとした手はタイミングを見失って空中で止まったまま。
なにが起きたか分からなかったけど、たぶん私は俚斗にとって不快なことをしてしまったに違いない。
「ごめん」
そう謝ったのは私じゃなくて俚斗だった。
その顔は避けられた私よりも悲しそうな顔をしていて、私は首を横に振って大丈夫と訴える。
だれだって横から手が伸びてきたら反らしたくなるし、親しくもないのにそんなことをしようとした私も悪い。
だけど、俚斗があまりに人懐っこいから、その大丈夫と大丈夫じゃないの境目を見失っていた。
だから、俚斗が謝る必要はない。
「私こそごめんね」
そのあと観光客たちはバスの時間なのかみんな池から離れていって、私もスマホの時計を確認する。
道北バスが来るまであと10分。観光バスはもう出発するみたいだし、ついでに乗せてくれないかな、なんてバカなことを考えていると……。
「さ、小枝……!」
また私を引き止めるような俚斗の声。
「まだ帰らないで」
「え?」
「ちょっと、もう少し話せる?」
俚斗は余裕のない顔でそう言った。