ずっと人とのコミュニケーションを遮断してきたから、話しかけられても自分の中で話を終わらせてしまう癖がついていた。

だから今も悪意があって無視していたわけじゃない。


「忘れるわけないでしょ。そんなに記憶力わるくないし」

「なら、良かった」

俚斗がホッとした表情をしていた。


同じ17歳で、黙っていれば俚斗は普通の男の子だけど喋ると幼さも見え隠れする。後ろを通った女子大学生風のふたり組が俚斗のことを見てひそひそ話をしていた。

あれはたぶん、褒めてるやつだ。


カッコいいね、とか、何歳かな、とか。そんな声が分かるぐらいだから、やっぱり私の耳は遠くない。どうやら俚斗の足音が異常なほど静かなだけだったようだ。


「そのコートお気に入り?昨日も着てた」

後ろから熱い視線を送られているのに俚斗は気づかない。これがもし気づいてないふりなら、けっこう侮(あなど)れない人かもしれない。


「……べつにお気に入りじゃない」

とりあえずコートとダウンさえ持っていけば大丈夫だろうとリュックに詰めただけだし、アウターやボトムスだって適当にローテーションできそうなものを選んだだけ。


「そっちこそ昨日と同じじゃん」

「ん?俺これしか持ってないし」


俚斗は黒色のミリタリーコートを着ていた。

フードには焦げ茶色のファーが付いていて、首元と両側のポケットにはだらんと垂れ下がる紐。

シャカシャカとした防水素材じゃなくて普通の雪を吸い込むような布生地だけど色が黒だから目立たない。


「それしか持ってないとか、嘘言わないで」

「はは、俺は嘘なんてつかないよ」