左に傾けると青、右に傾けると赤……と、角度によって色を変えるガラスの花を握りしめながら、私はゆっくりと立ち上がった。


目を瞑れば浮かんでくる、俚斗との思い出。


どこを探してもいなかった俚斗の姿。

でも俚斗は毎日通っていたこの池でもなく、17年間過ごしてきたこの町でもなく、一番近くて一番暖かいところ。


俚斗は私の心の中にいた。


俚斗、これからは色んな季節を私と一緒に見よう。

離ればなれなんかじゃない。

きみはこんなにも私の傍にいて、今も笑ってくれている。


私は俚斗からもらった髪留めを左耳の横にとめた。

もう、下は向かない。前を向いて歩いていく。

だって……。


『ほら、真正面を向くとピンク色。春の色でしょ?』

凍りついていた青い池は雪解けて、今は真っ青な色が広がっている。

まるで私の心のように、そしてこの晴れ渡った空のように綺麗な色。


春の匂いがする青い池はキラキラとしていて、もう心に寂しさはない。

きみが教えてくれた強さ。

きみからもらった果てしない心の暖かさ。

今も優しくきみが私の背中を押す。


「俚斗、ありがとう。私、頑張るからね」


愛しい人に出逢えたこの世界で――。



【降りやまない雪は、君の心に似てる。END】