そこには傷ひとつ、ついていなかった。
俚斗の体力とともに奇病の力が弱まったのか、それとも私たちが奇病に打ち勝ったのか、それは誰にもわからない。
「俚斗」
我慢していた涙が溢れた。
その瞬間、ふわりと髪の毛が揺れて、俚斗は私を抱きしめていた。
それは痛いくらい、強く強く。
「小枝っ……」
俚斗の詰まるような声が耳元で響く。
本当はずっとこうしたかった。
はじめて感じる俚斗の優しい体温。私は自分の身体に刻み込むように俚斗の背中に手を回した。
「小枝は暖かいね」
「俚斗も暖かいよ」
もう私たちを遮るものはなにもない。
同じ気持ち、同じ温もりで、やっとひとつになれる。
俚斗は力が抜けたようにゆっくりと私にもたれ掛かって、そのまま私の膝に頭を落とした。
まるで子どものように横になった俚斗の髪の毛をずっと撫で続ける。俚斗のことが愛しくて仕方がない。