そのあと施設の人たちにバレないように、私たちは外に出た。俚斗の格好は、いつもの黒いミリタリーコートを羽織っている。

バスを降りたときには明るかったのに、いつの間にか外は薄暗くなっていて、寒さが洋服を通して肌を凍えさせる。


「……俚斗、大丈夫?」

雪道を一歩ずつ踏みしめながら、私は俚斗が歩きやすいように雪があまりない場所を選んで進む。


「ハア……うん。大丈夫」

俚斗は眉毛を下げてニコリと笑う。


きっと身体を動かすだけでツラいに違いない。
呼吸をするだけで身体中が痛いはずだ。それでも、俚斗は歩き続ける。


バスでは行くことができない山の細道。

そこは歩道よりも積雪が深くて、ブーツが埋もれてしまうほどに。


私たちの足音と息づかい以外なにも聞こえなくて、まるでこの町に私たちしかいないみたいに静かだ。


私は俚斗に声をかけながら歩いて、その間、俚斗と過ごした日々のことを思い出していた。