「大丈夫なの?苦しい?」

私の質問に、俚斗は肯定も否定もしなかった。
そしてベッドの天井を見つめながら唇がゆっくりと動く。


「小枝。俺ね、いつかこんな日が来るってわかってた」


ドクン、と私の心臓が跳ねる。


「昔はね、いつ死んでもいいと思ってたんだ。母さんや父さんに会うことができるし、俺はずっとひとりぼっちだったから、早くそんな日が来ないかなって思ってた時期もあった」


俚斗は過去のことを思い出すような、遠い瞳をしていた。


「でも、昨日からずっと考えてるのは、小枝のこと」

俚斗と目が合って、私は見えない場所で手に力を入れた。

覚悟を決めてここまで来たのに、すぐにまた弱虫な自分が顔を出す。


「小枝は、俺がいなくなったら泣くでしょ?それを想像するのも嫌だし、なによりすごく心配。東京に戻って大丈夫かなとか、学校で友達ができるかなとか、お母さんとうまくやれるかなとか、そんなことばっかり昨日から考えてた」

「……っ」


どうしてこんな時でさえ私のことを気にかけてくれるんだろう。嬉しいよりも、情けないよ。


私はずっと俚斗の優しさに甘えていた。

振り向いて名前を呼んでくれること。私が立ち止まったら一緒に足を止めてくれること。下ばかりを向いていると顔を覗きこんで安心させてくること。


でもね、本当は私、きみの弱さが見たかった。

私は強くないし、頼りないし、欠点のほうが多いけど、俚斗を『大丈夫?』と不安にさせるより、俚斗に『大丈夫だから!』と胸を張りたい。