『たしかに私は、大樹と小枝を天秤にかけた時に大樹を優先してた。元気で活発な大樹は気づけば怪我ばかりをしてくる子だったから、いつも目が離せなくて、しっかり者の小枝よりも気にかけていたの』

その本音を聞き逃さないように、私は耳の神経を尖らせる。


『それであの事故があって、あの子を守れなかった自分をイヤというほど責めた。……気づいたら、小枝と大樹を重ねてしまっていた』

お母さんの声がだんだんと涙声に変わっていく。


お母さんにとって、大樹のことを思い出すことはあの事故を思い出すのと同じだ。

だから今、すごくすごく苦しいはず。


『いなくなった現実に耐えられなくて、大樹は生きてるってそう信じたくて……。小枝にはツラい思いをさせてしまった』


「……お母さんは、私より大樹が生きてたほうが良かったんじゃないの?」


ずっと聞きたくて、ずっと聞けなかったこと。


あのとき、席を代わってほしいとワガママを言った。そして、私が座るはずだった場所に大樹が座った。

死ぬはずだったのは、私だった。必要とされてないのに、お母さんにとってなによりも大切だった大樹を私が奪った。


『それは違う……!』

お母さんが声を張り上げた。続いて、電話越しでヒクヒクと泣く声。

私はこの声が嫌いだった。泣きたいのは私のほうなのにって、ずっと唇を噛み締めることしかできなかった。