そして私は俚斗に会いに行った。短い嘘の友達関係だったけれど、黙って東京に行くことはできなかった。
いつものように道北バスに乗って二十分。バス停を降りて遊歩道を進むと見えてくる青い池。
この池にも暫く来れない。そう思うと、鼻の奥がツンとした。俚斗はいつもの場所で立っていた。
「あ、大樹!」
俚斗が私ではない名前を呼んで嬉しそうな顔をする。
俚斗がどうして青い池に通い続けているのか、その理由も知らないまま私はこの町を出る。
お互いのことなんてなにも知らなかったけれど、一番苦しかった時にここに来て俚斗に会えたことは、言葉にするには恥ずかしいけど、奇跡だと思っている。
もう少し大人になって、私が私として俚斗の前に立てたら、いつかこの気持ちを本人に伝えたい。
「俚斗。急だけど、引っ越すことになった」
あえて寂しい顔は見せなかった。
「ひ、引っ越す?どこに……?」
俚斗が寂しそうに眉を下げる。
「東京。もう住む場所も決まってて、学校の手続きも終わった」
友達だったみっちゃんや智子ちゃんには伝えていない。
離れていった人たちは数えきれないほどいる。だけど、俚斗だけにはちゃんと自分の口でさよならを言いたかった。
「遠いね。俺、大樹のような友達っていなかったから本当に楽しかった。ありがとうね」
俚斗が、泣きそうな顔をして言った。
最後までなにも疑わない。その純粋さにまた心が傷んで、私は唇を噛みしめる。
「……俚斗はこれからもここに来るの?」
「うん。来るよ」
「そっか……」
俚斗の頭に白い雪が積もっていて、明日からも彼はこの場所に立つ。そのひとりきりの姿を想像したら、またズキンと俚斗に触れた時の傷跡が騒ぐ。