美瑛町に雪が降った。それは手のひらに乗せるとすぐに溶けてしまう儚い雪。


私は今日も嘘をついて、青い池へと向かった。
今ではバスの運転手さんに顔を覚えられていて、よく話しかけてくれる。


青い池に着くと、白樺の木が真っ白に染まっていた。

鮮やかな青の水の中に雪が溶けていって、寒いけれど何時間でも見ていられる景色だ。


「大樹」

すると、向こう側から俚斗が歩いてきた。俚斗は私を見るなり「あれ……?」と首を傾げる。


「なんかいつもと感じが違うね」

私が着ている服は黄色いレインコート。色んなことを考えすぎて、つい自分の洋服を選んできてしまった。


可愛いリボンが付いてるわけじゃないし、男の子が着ていても大丈夫なデザインだけど、大樹は青や緑が好きだから、俚斗にとって見慣れない色なのかもしれない。


このままバレてもいいかなと、一瞬だけそんな考えが頭を過ぎった。

ずっと大樹の代わりとして生活していることに疲れてしまったことと、あとひとつ。

俚斗に嘘をついている罪悪感。他の人にならこんな風に思わないことも、優しい俚斗にだけは後ろめたさを感じてしまう。

でも俚斗は同性の大樹だから仲良くしてくれただけで、女の子と知った私じゃ仲良くしてくれないかもしれない。


「あ、もしかして大樹ってお姉ちゃんがいるの?」

俚斗がキラキラとした目で私を見ている。その眩しさに圧倒されて、思わず首を縦に振ってしまった。