「それでも、大樹のことを想うと息ができないくらい苦しいの。だから少しでもあの子を感じられるように忘れないように、小枝の中に大樹を探してしまうのよ」
お母さんも頭ではきっと分かってるんだろう。
それでもコントロールできないほどの悲しみが起きてしまった。そんな時にどう立ち上がるかなんて、学校でも習わないし、大人になっても分からない。
「とりあえず少し冷静になりなさい。もし必要なら病院にも付き添うから」
「……病院?」
「メンタルクリニックよ。自分でどうにもならないなら先生や薬の力を借りてもいいと思うの。だから――」
「……っ。私は頭がおかしいわけじゃない!」
お母さんはそう言って家を飛び出していった。
お母さんの心が疲れていることは私も分かる。夜も浅い眠りを繰り返して、うわ言のように大樹の名前を呼んでいるから。
ねえ、大樹。
大樹がいないと家族がこんなにもめちゃくちゃだよ。
私は好きなこともないし、やりたいこともないし、大樹のようにサッカー選手になるって夢もない。
もう嫌いだなんて言わないから。嫉妬したり、大樹なんてって思わないからさ。
だからお願い、帰ってきてよ。
私は襖にもたれ掛かるようにしゃがんで、声が漏れないようにひとりで泣いた。