後日、野良猫の張り紙は剥がされていた。

飼い主の元に戻ったのか、諦めてしまったのか、それは私には分からない。でも俚斗はいつもマイナスなことを言わないから、私もそんな風になりたいと思う。

だから私は猫が保護されて、暖かい場所で元気でいてくれたらいいな、と願った。


それから数日が経って、中山峠(なかやまとうげ)のほうで初の積雪があったとニュースでやっていた。


きっともうすぐ美瑛町にも雪が降る。こうして季節は目まぐるしいスピードで変わっていくのに、私はなにも変わらない。


お母さんは相変わらず大樹の姿と私を重ねていて、この前なんて『これ大好物でしょ』と作ってくれたのは、私の嫌いなピーマンの肉詰め。

昔からピーマンだけは苦手で、ひと口食べただけで気持ち悪くなってしまうから、私のピーマンはいつも大樹が食べてくれていた。


『それが好きなのは大樹だよ』と言いかけて、お母さんはそうすることでしか寂しさを埋められないのだから、と私はただ我慢した。

ムリして食べたピーマンはやっぱり気持ち悪くなって、内緒でトイレで吐き出した。


そんな日々が続いたある日。ついにその光景を見かねたおばあちゃんがリビングにお母さんを呼び出した。


「尚子、もう大樹と小枝を重ねて見るのはやめなさい」

おばあちゃんはお母さんがいない場所で、ずっと私のことを気にかけてくれていた。だけど私は心配をかけたくないから『大丈夫だよ』と返していた。

でも本当は違うとおばあちゃんは気づいていたのだ。