バス停を降りると、たしかに目立つ場所に迷い猫の張り紙が貼ってあった。

そこには猫の名前と写真が載せられていて、【一歳半の三毛猫】と書かれている。見つかった時のために飼い主の連絡先までしっかりと記載されていて、本当に大事な猫なんだろう。


とりあえず私たちは、『白樺遊歩道コース』という場所を歩くことにした。

ここは大きな木や茂みが多いから、猫が紛れていてもおかしくはない。


「ここ熊でるらしいよ」

こっちは真面目に捜しているというのに、俚斗が脅すようなことを口にする。


「変なこと言わないでくんない?」

「だって、ほら」

俚斗が指さした方向には【熊出没注意】の看板が。


思わず叫びそうになったけど、ここで女の子とバレるわけにはいかない。だから、大樹ならなんて言うか考えた。

きっと大樹だったら……。


「はは、そんなの怖くもなんともないし!むしろ出てきたら俺が一撃で追い払ってやるよ!」

そうそう、大樹はこう言うはず。

怖いもの知らずで、私が変な人に追いかけられた時も相手を睨みつけて決して怯(ひる)むことはなかった。


「大樹って強いんだ」

「ま、まあな」

「じゃあ、今度俺にも教えてよ。その一撃」

俚斗がニカッと笑うから、私の笑顔も男の子のように豪快になる。大樹として接していると弱い私が上手く隠れているような気がして、嘘をついている後ろめたさが消えていく感じがした。