俚斗がどこに住んでるとか、どこの学校に通ってるとか、素性が分かるようなことはなにも知らない。それに繋がるような質問もしなかったし、すれば自分も聞かれてしまう気がしたから。


「温泉気持ちよかったよね。料理も最高だった!」

その時、後ろを通った観光客の声が聞こえた。どうやら白金温泉に行ってきた帰りらしい。


「でもさ、気になるよね。アレ」

〝アレ〟という単語につい耳を傾けてしまった。


「あー、あの迷い猫の張り紙ね」

「早く見つけてあげないと可哀想だよね。冬が来たら絶対死んじゃうよ」

そんな会話をしながら女子大生のふたり組は去っていく。


……迷い猫か。たしかにあと1か月もしない内に雪が降るだろうし、今年の初雪は早いとテレビで言っていた。

自然と俚斗と顔を見合わせて、まだなにも言ってないのにお互いの言いたいことが分かってしまった。


「大樹は動物大丈夫?」

「苦手なやつもいるけど猫は好き」

「じゃあ、行く?」

「うん、行こう……!」

私たちは青い池からバスに乗って、そのまま白金温泉へと向かった。