「ひとり?」
私はこくりと頷く。
「お母さんとお父さんは?」
私は首を二回、横に振った。
「じゃあ、俺と一緒だね」
その意味がなんなのかよく分からなかったけど、男の子がすごく優しい顔で笑うから、いつの間にか警戒心がなくなってしまった。
「俺は俚斗。きみの名前は?」
『小枝』という名前を言おうとして私は止まった。
背中には、黒いランドセル。洋服も靴も男の子用で、きっと本当のことを言わなければ、私は〝大樹〟になれると思った。
大樹は私と違ってすぐに人と打ち解けられる性格だから、この男の子ともすぐ仲良くなれてしまうだろう。
それに、私は自分のことが許せなくて大嫌いで、お母さんにも必要とされてない人間だから……。
「大樹」
迷って、考えて、ドキドキしながら名前を口にする。
「……だいき?」
俚斗が首を傾げながら私のことを見ている。
もしかしてバレた? 身長も声もさほど男の子と変わらないから大丈夫だと思ったんだけど……。
「カッコいい名前だね!大樹って呼んでもいい?俺のことも俚斗でいいから」
ニコリと、無邪気な顔で笑う。
これが、私と俚斗の1回目の出逢いだった。