「奇病のことはひとにぎりの職員しか知らないんだ。だからなるべく一緒に暮らしてる仲間たちにはバレないように生活してる」

だから俚斗は、ご飯もお風呂もひとり。

誰よりも愛情を求めているはずなのに、奇病が人との関わりを邪魔させる。


「今は色々と慣れちゃったけど、小さい頃は気味悪がられたりするのがツラくて、その頃から青い池に通うようになったんだ」

誰よりもなによりも優しい人なのに、世界は俚斗を孤独にする。


俚斗は一体どんな気持ちで毎日あの青い池に通っていたのだろう。

通いたくて通っていたんじゃない。

俚斗はあそこしか居場所がなかったのだ。


「誰にも触れられないってことはさ、誰にも触れてもらえないってことでしょ。だから俺は、もう二度と母さんや父さんからもらった愛情を人から受けることはない」

俚斗の髪の毛から滴り落ちる雫が頬を伝って、まるで私には泣いているように見えた。


「そう考えたら、やっぱり俺はずっとひとりなんだなって。べつに俺がいなくなっても誰も困らないなって、なんだか無性に叫びたくなる時があるんだ」


いつも明るくて笑顔を絶やさない俚斗がこんなに重たいものを背負っていたんだと知って、許されるのなら俚斗を力いっぱい抱きしめてあげたい。

私はどんなに傷ついてもいいから、俚斗にもらった傷なら痛くない。だから……。

私は今にも消えてしまいそうな俚斗に手を伸ばす。


きっと、私の心は傷ついていなくても、傷を負わせたという罪悪感で俚斗が苦しむことは分かっていた。

誰かに冷たくされても、一生癒えぬ傷を負っても、それでも自分が傷つける側の人間にはなりたくない。


俚斗はそういう優しさを捨てることができない人だから。