あえて寺本からだとは伝えなかった。そこで俚斗がイヤな気持ちになるかもしれないし、ふたりで話したことを知れば心配させてしまうと思ったから。
「ごめんね」と私がもう一度謝ると、俚斗は首を横に振る。
「ううん。俺のほうこそ隠しててごめん」
次に首を振ったのは私のほう。
まるでふたりだけの世界のようにゆっくりと時間が流れる中、俚斗が静かに話してくれた。
「俺ね、両親がどっちもいないんだよね」
ざわっと心が揺れる。
「小学生のときに不慮の事故で死んじゃって。それから身寄りがいなくなった俺は施設に預けられることになったんだ」
私は雨の音で聞き逃さないように耳をいつもより敏感に働かせていた。
「両親はすごく俺を大切に育ててくれた。行儀も箸の持ち方も厳しかったけど、それは全部俺のため。……でも、幸せだった生活が一瞬で変わった。それからは、ずっとひとりぼっち」
ズキンとなにかで叩かれてるみたいに胸が痛かった。でもその痛さよりも何倍も俚斗のほうが苦しかったと思う。
「施設の人はいい人だよ。それでも、やっぱり両親の死を受け入れることができなくて、当時はよく逃げ出してた」
「……この体育館にも?」
すると俚斗がこくりと頷く。