「本当に北海道でオーロラが見れるの?」
「うん。条件が揃えばね」
「……条件って?」
「風がなくて空気が清んでいて乾燥してるとき。なんか放射冷却っていうのが起きやすいと、ごく稀にオーロラが発生するらしいよ」
さすが俚斗は詳しい。そういうのを知ってるってことは、自分で調べたりしたのかもしれない。
そんなに見たいものなら見せてあげたいけど、自然現象だけは誰にも操れないから運も必要な気がする。
「でもムリかもしれない」
どうやって運を呼び寄せようか考えていたところだったのに、俚斗が諦めるような口調で言う。
「オーロラが発生するのは11周期って決まっていて、つまり11年に一度ってことなんだけど、実は今年がその年なんだよね」
「じゃあ、どうしてムリなの?」
「さっきも言ったけど、本当に見られるのはごく稀なんだよ。今年見られなかったら俺は……」
そのあとの言葉を俚斗が口にすることはなかったけれど、私にはわかってしまった。
『今年見られなかったらもう見られない』そう言おうとしたんでしょ?
俚斗の中にいる奇病は5年生きることができないほど進行が早くて、その体温だけでなく命までも奪っていく。しかも俚斗はすでに、その難しいと言われる期限を過ぎている。
今年が最後。これを逃してしまったら、もう彼が見たいと願うオーロラは11年という扉の向こう側にいってしまう。
そんな果てしない未来に、俚斗はいない。