画面の中央におさまるようにピントを合わせて写真を撮ろうとしたけれど、シャッターボタンを押す人差し指が止まる。
『綺麗な思い出は綺麗なままがいいしね』
前に言っていた俚斗の言葉を思い出した。
写真を撮ればそれは色褪せることなく残る。きっと私はその写真を見るたびにこの出来事を鮮明に思い出すだろう。
でもそれは、楽しかったって気持ちよりも苦しさが残るような気がした。だってその時には、もう俚斗は私の隣にはいないかもしれない。
「ちゃんと撮れた?」
俚斗が画面を覗いてきて、私は慌ててスマホを下に向ける。
「う、うん。ばっちり!」
私は嘘つきだ。そして、雪だるまの写真を撮ることができないくらい心が弱い。
「……すぐに溶けちゃうかな」
そんな雪だるまを見つめながらぽつりと呟く。
「大丈夫だよ。日が当たらない場所だったり、こういう山の中はとくに雪が残りやすいからね」
それを聞いて安心した。今作ったばかりなのに愛着がわいてしまっていたから。寄り添いながら並ぶ姿が本当に愛らしい。
すると、俚斗が雪だるまの頭を撫でた。
その指先の体温と雪の冷たさが同化して、澄みきっている空気中に混ざり合う。まるでそれがダイヤモンドダストのようにキラキラとした細い結晶を作り出して、ため息がでるほど綺麗だった。
「それでも、跡形もなく雪がなくなる時は必ずくるけどね」
俚斗がそう私に笑いかける。
「……この雪だるまがなくなるのはちょっと寂しいな」
「そうかな」
「……え?」
「一緒に溶け合えたほうが幸せじゃない?」
俚斗の言葉はいつも希望に満ち溢れている。マイナスなことばかりを考えてしまう私とは正反対。
……私も、俚斗と溶け合えたらいいのに。
それで、ふたりでひとつになるの。そしたらずっと一緒にいられる。永遠に別れなんて来ないのにって、本気でそう思う。