そんなふうに他愛ない話をしてる間にも、山から吹き抜けてくる風が髪の毛をさらっていく。
凍っている青い池は波風ひとつ立てずに、白樺の木に積もっている雪はまるでスノードームのように空へと舞う。
手すりをぎゅっと握れば、同時に右の手のひらの傷跡が疼いた。
東京にいる時も、不思議と傷を眺めてしまうことがあった。その傷跡の理由を思い出したいような、思い出したくないような、そんな気持ちが込み上げてくる。
だけどそうやって、ことあるごとに気にしてしまうってことは、私はなにか大切なことを忘れてしまっているのかもしれない。
ただ単に、やかんに触れただけでできた傷ならば、こんなに思いを馳せるような気持ちにはならないから。
そんなことを考えながら私がぼんやりと池を見ている間、俚斗はおもむろにしゃがみこんでなにかを作りはじめた。
周りの雪を一箇所に集めて、小さかった雪の塊が転がすごとに大きくなっていく。
「これって……」
雪の塊はふたつあった。
「なにに見える?」
子どもみたいな無邪気な表情で、俚斗が聞いてきた。
「なにって、雪だるまにしか見えない」
「はは、うん。そう雪だるま」