「たき火を組む時は、下に小枝や葉っぱ、上に太い枝、にしていかないと燃えにくいんだ」
火というものは下より上の方が、温度も高いので、燃やすのに時間の掛かる太い枝を上に置く方が、燃え広がりやすく、火の持続時間も長い。
「蝋燭の火を指で揉み消す時、下側を抓んで消すだろう? あれは下の方が、火の温度が低いからできること。たき火も、火の温度を考えて組むもんなんだ」
ついでに枝を真っ二つに折り、これが湿気ている枝であることをライソウに教える。たき火に使う枝は乾いたものを使うのが鉄則。なのに、この枝は湿気ている。火を熾しても、燃え広がることが難しい。
たき火の枝を拾う時は、枝を折って、ぱきっと乾いた音が出るかどうかを確認することが大切だと、ユンジェは語った。
それを後ろで静聴していたカグムが、感心したように相槌を打つ。
「へえ。ユンジェ、詳しいな。たき火の組み方は知っていたが、その理由は知らなかったよ」
「冬は薪を売って生活していたからね。たき火も毎日のようにしていたし。それに、爺によく言われていたんだ。ただ知識を得るだけじゃなくて、なんでそうなるのかも考えろって」
爺のおかげで、考える癖がついたと言っても過言ではない。
すると。話を聞いたカグムがライソウに向かって、こんなことを言う。
「ライソウ、ついでにユンジェから火のつけ方も習った方がいいんじゃないか? お前だけだぞ、この中で火打ち石が使えないの。貴重品の燐寸ばっかり頼りやがって」
困ったように吐息をつくカグムに、ライソウは「あれは面倒で」と、苦笑い交じりに言い訳を述べる。ユンジェは燐寸がどういうものか知らないが、火打ち石を使えないことには驚いてしまう。
「ティエンだって、火打ち石を使えるのに」
ライソウは血相を変えた。王族ができるわけがない。信じられないと言われてしまうが、嘘はついていない。ティエンは一人で火を熾せる。
そこでユンジェは本当であることを証明するため、戻って来たティエンに、たき火の話をして火をつけてくれるよう頼む。
事情を知った彼は頭陀袋から火打ち石を取り出すと、打ち金でそれを叩き、手際よく火種を飛ばした。
あっという間に火を熾したティエンは、その出来栄えに、たいへん満足気であった。一方、カグムは固まっているライソウに肩を竦め、ちくりと言う。
「ピンインさまが火打ち石を使えて、下々のお前が使えない。流石にまずいんじゃないか。確かにお前は人の貴族出身だから、燐寸を使うのも頷けるが、王子が使えちゃ、な?」
どうやら火打ち石は身分の低い者が使う代物らしい。そういえば、ティエンも最初は火打ち石に戸惑っていたような気がする。
(まあ、ティエンの場合、火を扱うこと自体はじめてだったみたいだけど。それより)
ユンジェは貴族に詳しくないので、つい気になることを口にする。
「人の貴族って? 貴族は人じゃないのか?」
カグムが笑い、そうじゃないと手を振る。
「階級の呼び名だよ。『天地人』って言葉になぞらえ、上から天、地、人の貴族と呼んでいるんだ。簡単に言えば、貴族の中で偉い順を決めているんだよ」
さらに細かく言うと、同貴族の中で大中小と分かれているそうだ。ユンジェは言葉を反芻する。忘れないようにしなければ。
さて。戻って来たティエンはご機嫌であった。川で大物を獲ったようだ。腰に下げていた布紐を解き、それを素手で持って見せびらかしてくる。
「どうだユンジェ。これは私が今まで捕まえた中でも、飛び切りの獲物だと思うぞ」
ユンジェは目を輝かせたが、なぜであろう、カグム達は静まり返っていた。
「すごいなティエン! そんなでっかいカエル、よく見つけられたな!」
そうだろう。そうだろう。ティエンは顔ほどある、大きなカエルを嬉しそうに見つめた。
カエルの中には、食用になる種類もいる。
ティエンが獲ってきたのはまさにそれで、旅に出る前はよく二人で獲って、飢えを凌いでいた。カエルは鶏に似た風味をしており、大変美味である。ユンジェは舌なめずりをした。
「川にいたのか? それ」
「ああ、岩の間に潜んでいたところを捕まえたんだ。こんなに丸々太ったカエルなんだから、食べる部分も多い。肉を食べると、血が増えるそうだぞ」
はやく元気になってほしいティエンは、ユンジェにもう何匹か捕まえてくると告げ、今晩の食事を楽しみにしておいてくれ、と微笑んだ。
彼の優しさに、くすぐったい気持ちを抱くユンジェだが、様子を見守るカグムはげんなりと肩を落とし、ハオに苦言する。王族が素手でカエルを捕まえたばかりか、それで料理をする、と発言したことに思うことがあるようだ。
「ハオ、お前……王子に余計なことを教えやがって。ピンインさまは王族なんだぞ」
「いや俺は! 血を作る食い物には肉もありますよ、と教えただけで、カエルとは一言も言ってねーよ! あれは平民の食い物っ、誰がどう見てもクソガキのせいだろうが! 見張りにシュントウをつけたんだろ? なんで止めなかった!」