「そういう物の見方は彼女に失礼だろ。幸せになるには待っているだけじゃダメ、ってことだよ。俺は千鶴の行動力を称えるけどな」

立ち上がって店の奥に引っこもうとする雄也が振りかえって言った。

「千鶴は幸せを自分の手でつかんだ。それでいいだろう?」

「……うん」

納得できないまま曖昧にうなずくと、

「いろいろお疲れさん」

あっさりと雄也は奥に消えた。

「……お疲れ様です」

残された私は、横にいるナムを見た。

「恋愛って奥が深いんだね……」

ナムはあくびと一緒に、

「なーん」

お気楽に答えてから、また目を閉じた。

少しだけ人生経験が増えたような気分。たとえるならゲームの主人公のレベルがひとつ上がった感じ。

帰り支度をして戸を開けると、まぶしい光が目に飛びこんでくる。

夢から覚めたような気分で、私は夏の町へ足を踏み出した。