「くるみ」

突然、凪の声が聞こえて、わたしはぎょっとした。

「痛い。力強すぎ」

思わず「ぎゃっ」と叫んで、後ろに飛びのいた。

凪ってば、いつから意識が戻ってたの?

「お、起きてたなら早く言ってよ! もう!」

「大きい声出さないで、頭痛いから」

「あっ、ごめん」

凪は頭を押さえて、まだ少しぼーっとしているようだった。

郵便局で倒れた時も、こんな感じだったと思い出す。
まるでどこかを旅して帰ってきたかのように、心ここにあらずな様子だった。

「凪? 大丈夫?」

「なんか……ちょっとやばいかも」

「え? 頭すごく痛い? 気持ち悪い?」

焦るわたしに、凪は首を横に振った。

「違う。僕じゃない。翔くんの奥さん」

「え? お兄ちゃんじゃなくて? 玲美さん?」

「急いだほうがいいかもしれない。手遅れになる前に」

凪は、真剣な表情でわたしを見つめた。