「くるみ?」

凪の驚いた声が聞こえた。
わたしは恥ずかしくて凪に顔を見られたくないから、凪が動かないように、凪の背中にぎゅっとおでこを押し当ててじっとしていた。

「わたしがいるじゃん」

絞り出すようにして言った。

「おじいちゃんだっているじゃん。毎日一緒にたくさん笑って、充実してるし、楽しいじゃん」

もっと優しく言おうと思うのに、つい駄々をこねる子供のような口調になってしまう。

「いまだって、十分幸せでしょ? ……わたしは凪といれて、本当に幸せだよ」

凪がふっと微笑むのが、体を通して伝わってきた。凪のお腹に回したわたしの手を凪の手が包む。

おじいちゃんの手伝いで、けっこう農作業をやっているのに、凪の手は華奢でやわらかい。
その繊細な手に包まれて、わたしは泣きたくなった。

「……そうだね。幸せだよね。でも、時々思い出しちゃうんだ……。ごめん」

謝ることなんてなにもなかった。わたしはただ知っていて欲しいだけ。

わたしは凪のことを大好きなこと。凪といる時間が幸せなこと。

凪とずっと一緒にいたいと思っていること。

そんな思いを込めて、わたしはぎゅっと凪を抱きしめていた。