「なんでこんなに混んでるの?」

「あー、考えて見たら今日金曜だ」

凪の言葉に、わたしたちは顔を見合わせた。

そうだ、夏休みの金曜日は休前日だから観光客が押し寄せるのだ。
夏休みに入ってから、曜日の感覚がなくなってしまっていた。

でも、どのコーナーもいちいち並ばなくてはいけなかったけれど、凪と一緒ならそれはそれで楽しい。かわいい熱帯魚にはしゃいだり、爬(は)虫(ちゅう)類(るい)にげんなりしたりしながら、わたしたちはいろんなコーナーを見て回った。

「もうすぐイルカのショーが始まる」

パンフレットを見ていた凪が、声を上げた。

確かに、周りを見渡せば、イルカのプールの方に移動する人たちの流れができていた。

「見たい見たい!」

わたしは人の流れに乗って、歩き始めた。

しばらくして凪がついてきているか後ろを確認するも、その姿がない。
はぐれてしまったかとあわててキョロキョロしていたら、「くるみ! こっち!」という声がして、手をつかまれた。

「同じ時間にアシカのショーもあるんだよ。くるみが見たいのはイルカでしょ?」

凪は「まったく、早とちりなんだから」と言いながら、わたしの手をつかんでイルカのプールの方向に歩いていく。

そのまま自然な流れで、わたしたちは手をつないで歩いた。
あんなにずっと一緒にいたのに、手をつなぐのは初めてだった。

なんだか恥ずかしくて、照れくさい……。

けれど、今のわたしはもっと凪を強く感じたかった。

「凪」

わたしはそっと凪の手をほどいた。

「あ、ごめん」

凪はあわてたけれど、わたしは凪の指と指の間に自分の指をしっかり絡めて、恋人つなぎをし直した。

「こっちがいい」

その言葉に、凪は「オッケー」と笑い、ぎゅっと握り返してくれた。