ある日、おじいちゃんに頼まれて日用品の買い出しに、町の中心部にあるスーパーにふたりで出かけた。
この町の海辺には通好みのサーフポイントがあり、夏の間は東京から貸別荘に滞在する人も多い。
スーパーにも、そんな夏の間だけの滞在者が増えていた。
わたしたちがカートを押していると、バーベキューの食材を調達に来ているらしいカップルとすれ違った。
長い髪を無造作に束ねている女の人のうなじに星のタトゥーが見え、わたしは思わず凪の腕をつかんだ。
「あの人、首のところに星がある!」
小さい声で、でも興奮して言うわたしを凪が不思議そうに見つめた。
「タトゥーでしょ」
「だから! 凪のお母さんも耳の後ろあたりに星型のアザがあったっていってたじゃん。もしかしたらタトゥーだったのかも!って思って」
わたしがそう言うと、凪が「は?」と眉間にシワを寄せた。
「なんの話だよ。僕のお母さんって……」
凪は演技でもなんでもなく、本当にわからないという顔をしている。
「僕にお母さんはいない。くるみが一番よく知ってることだろ? あんまり訳のわかんないこと言わないで」
はっきりと断言されて、わたしは思わず立ち止まった。
凪はカートを押して、買い物を続けている。
その後ろ姿を見ながら、わたしは自分の腕が小さく震えていることに気づいた。
お母さんの耳の後ろにある星型のアザが大好きだったと教えてくれたのは凪だったのに。
『お母さん』という単語を口にする時は、あんなに甘い声を出していたのに。
こんなにそっけなくなるなんて……。凪は、本当にお母さんのことを忘れてしまったの?
わたしは自分がとんでもなく罪深いことをしたような気がした。
わたしのせいで、凪にとって一番大切なものを奪ってしまったのかもしれないと思うと、怖くて怖くてたまらなかった。
この町の海辺には通好みのサーフポイントがあり、夏の間は東京から貸別荘に滞在する人も多い。
スーパーにも、そんな夏の間だけの滞在者が増えていた。
わたしたちがカートを押していると、バーベキューの食材を調達に来ているらしいカップルとすれ違った。
長い髪を無造作に束ねている女の人のうなじに星のタトゥーが見え、わたしは思わず凪の腕をつかんだ。
「あの人、首のところに星がある!」
小さい声で、でも興奮して言うわたしを凪が不思議そうに見つめた。
「タトゥーでしょ」
「だから! 凪のお母さんも耳の後ろあたりに星型のアザがあったっていってたじゃん。もしかしたらタトゥーだったのかも!って思って」
わたしがそう言うと、凪が「は?」と眉間にシワを寄せた。
「なんの話だよ。僕のお母さんって……」
凪は演技でもなんでもなく、本当にわからないという顔をしている。
「僕にお母さんはいない。くるみが一番よく知ってることだろ? あんまり訳のわかんないこと言わないで」
はっきりと断言されて、わたしは思わず立ち止まった。
凪はカートを押して、買い物を続けている。
その後ろ姿を見ながら、わたしは自分の腕が小さく震えていることに気づいた。
お母さんの耳の後ろにある星型のアザが大好きだったと教えてくれたのは凪だったのに。
『お母さん』という単語を口にする時は、あんなに甘い声を出していたのに。
こんなにそっけなくなるなんて……。凪は、本当にお母さんのことを忘れてしまったの?
わたしは自分がとんでもなく罪深いことをしたような気がした。
わたしのせいで、凪にとって一番大切なものを奪ってしまったのかもしれないと思うと、怖くて怖くてたまらなかった。