「あの、三日月紫苑……くんとはどういった関係で」
道中無言もつらかったので、頑張って話しかけてみた。
中性的で顔の造作が整っている、という点ではふたりは似ていたが、兄弟には見えなかった。顔は似ていない。

一歩先を歩く雲母は、ほんのすこしこちらに視線を寄越してから、そうですねえ、と小さくこぼした。

「まあ同居人、といったところでしょうか。面倒を見ている、でも間違いではありません」
「親族、とかでは」
「ありません。血は繋がってませんが、彼の祖父と縁がありましてね」
「おじいさんと」
「ええ、まあ彼もかれこれ五年ほど前に亡くなりましたが」

ほう、と雲母が大きく息をついた気がした。
ちょうど赤信号で並んだので、そっと表情を窺う。ものの、別段偲んだ様子は感じ取れなかった。その代わり彼の瞳は、前方の景色ではなく、どこか違う世界を見ているようだった。

信号が青になりともに歩き出す。
白川通を随分と下ってきた気がする。家が北のほうなので、こちらの景色はすこし新鮮だ。

「紫苑の祖父から頼まれている、というのが一番しっくりくるかもしれません」
数十メートル歩いてから、雲母がそう口にした。
「えっと、他の家族は」
なんとなく、話の流れから答えは予測できている。

「現状、紫苑とさして仲が良ろしくないと思われるあなたに、そこまで説明する必要があるでしょうか」
が、にこやかに麗人はこちらを睨んできた。相反する感情を表現することには長(た)けていそうだ。

「まあそれもそうですけど」
「けど?」
「いやほら、知っておいたほうが不躾(しつけ)なこととか言わずに……すみません単純な興味です」
「よろしい。他に家族はおりません。鬼籍に入っております。が、同居人があとひとりおります」
「言うんだ、そこ答えてくれるんだ」
予想外のことばに思わず声が出る。雲母には何度目かの微笑みを頂戴(だい)した。

「紫苑に興味を抱いてくれたことに対する謝礼です」
「謝礼……」

この人のノリがいまいち掴めないなあ、と思っていたら目の前に桜が見えてきた。今出川通だ。交差点から東、銀閣寺へと桜が連なっている。

今年の桜は遅かったため、今がちょうど見ごろ、といった感じかもしれない。
白川通に面するバス停には大勢のひとが列にもならない集団を形成している。ただでさえ観光客の多い銀閣寺。桜のころは一入だ。

左側、つまりは東側を向けば、文字通り桜色に溢れていた。
時折吹く春風が、桜の花びらをひらひらと舞わせている。あちらこちらにカメラを構えているひとがいた。わからなくもない。この時季はこれだけで気持ちが晴れやかになる。

いいなあ、と頭の中で絵の構図を考えてしまう。
家の近所も川沿いに桜が咲くけれど、それとはまた違った景色がここにはある。