「そうちゃんは?」

辺りを見回しても目に映るのは大きな木ばかりで、そうちゃんの姿は見当たらない。


「なんか忘れ物したとかで一回戻ったけど、そろそろ帰ってくるんじゃないか?」

テントの前に折り畳みのテーブルをセットしながら真人が答えた。必要な物は昨日話し合って確認したし、忘れ物ってなんだろう?



「よ~、やってるか!?」


大きくて野太い声と共に階段を上がってきたのは悟朗(ごろう)さん、真人の伯父さんだ。上下白いジャージを着ていて背が高く大きな体は、まるで体育教師のようないで立ちだ。でも悟朗さんは教師ではなく、町役場に勤めている。


「伯父さん、今日はありがとうございました」

私がそう言い、遥と一緒に悟朗さんに向かって頭を下げた。


最後の思い出作りにキャンプをしようということになったのだけれど、やるなら森美神社がいいと言ったのはそうちゃんだった。

昔からしょっちゅう遊びに来ていた場所で、缶蹴りやかくれんぼをしたり、悪戯をして怒られたことも何度もあった。外から丸見えなのに、ここを自分たちだけの秘密基地だと決めた時の興奮は今でも忘れられない。



森美神社は一応神社だけれどとても小さく、神主や巫女さんはいない。当然観光客が参拝に訪れるわけでもなく、鈴はあるけれど賽銭箱はない。


かなり昔には神主さんもいたらしいけれど、時代と共に後継者が減り、私達が生まれる前からここは無人の神社になっていたそう。とは言え一応神社なのだから神様がどうとかで、ほったらかしにすることをお年寄りの人達が嫌がって、交代で掃除をしたり管理をしているらしい。現在は悟朗さんがそれをやっている。



「お前らの頼みなら聞かないわけにはいかないだろ。親御さんも許可したんだしな。ただし、火を使う時は俺に言えよ」

ピッと人差し指を立て、太い眉をピクリと動かした。


「それから、今夜はここで寝るから、なんかあったら起こしていいからなー」


指差した神社の奥には、人が寝泊まりできるスペースがある。今でいうワンルームくらいの広さだ。昔はそこに神主さんが住んでいたらしいけれど、今は当然誰も使っていない。