その頃からそうちゃんは少し尖っていて、多分今も時々尖ってて。でも転校して来てからの九年間で、一つだけ大きく変わったことがある。
それは……この森美町を、好きになってくれたことだ。生まれた時からこの町で育っている私達と同じくらい、ううん、もしかしたらそれ以上に、そうちゃんは森美町を大切に思っている。
「二人ともちゃんと準備してるかな?」
隣を歩いている遥(はるか)の視線の先を追うと、鳥居が見えてきた。あの鳥居の先の階段を上ったところに神社がある。
「大丈夫だと思うよ。真人(まさと)も張り切ってたし」
「真人さ、確かこの日のためにテント買ったって言ってたよね?」
「うん。テントは俺が準備するから任せろって言ってたね」
「真人、頭はいいけどテントとか張れるタイプじゃなくない?」
「意外に不器用だしね。でもその辺はそうちゃんの行動力でカバーできるんじゃないかな」
「あぁ、颯太の野生の勘ね」
二人とも今頃、くしゃみでもしているかもしれない。
階段の下まで辿り着き顔を上げると、千二百段先にある神社はトンネルのように頭上にまで広がっている木が邪魔をして、ここからでは見ることが出来ない。
石段の隅には雑草が茂っていて、周りを覆う大きな木々からは風が吹くたび葉の騒めきが聞こえてくる。子供の頃はそれがなにかの唸り声のように聞こえて怖かったけれど、今は昼間なら一人でも余裕で上れてしまう。
そういうところ一つ取っても、少しは大人になったのかなと実感できた。
私と遥は一度軽く深呼吸をしてから鳥居をくぐり、数えきれないほど上ってきたこの階段を、ゆっくりと上り始めた。