けれどその瞬間は、間近に迫っていた。明後日の卒業式を終えた後、大好きな森美町を離れ、私達は別々の道を行く。



最後の思い出作りをしようと言い出したのは、そうちゃんだった。

卒業の前になにか思い出に残ることをしたいとみんな思っていたけれど、まさかそうちゃんが一番に提案してくるなんて。あの頃のそうちゃんに見せてやりたいと思った。



小学校四年生の時に東京から引っ越してきたそうちゃんこと塚原颯太(つかはらそうた)の最初の印象は、結構衝撃的だった。

先生が黒板に名前を書いて『一言挨拶して下さい』そう言われたのに、そうちゃんは俯いたままで、いくら待ってもなにも喋らなかった。


そのうちにみんなが不思議がって『どうしたの?』とか『緊張してるんだよ』とか言って騒ぎ出し、困った先生がみんなを静めようと一歩前に出た時、そうちゃんは床を見つめたまま教室の外まで響くような大声で言ったんだ。


『こんなど田舎、住みたくない!』


教室は一瞬にして静かになったけれど、先生も含めて全員がぽかんと口を開けて驚いているその様子がなんだか可笑しくて、私は一人、笑ってしまった。

するとようやく顔を上げたそうちゃんは、眉間にしわを寄せて私を睨んだ。



『なに笑ってんだよ! 本当のことだろ! コンビニも遠いしゲーセンもなんもないこんなど田舎、住めるわけねーし!』


『うん、そうかもね。でもさ、遊ぶところは沢山あるんだよ。今日の帰り、コッソリ教えてあげるよ』



これが、私とそうちゃんの初めての会話だった。


今考えればみんなの前で言ったのだからコッソリもなにもないのだけれど、転校生に、そうちゃんに、森美町を好きになってもらいたかった。

せっかくこの町に引っ越してきたのに、〝住みたくない〟なんて思ってほしくなかったから。