「大丈夫か?」
「うん」
時々立ち止まっては私の様子を伺う、それを繰り返しながら一段一段登って行った。
そうちゃんが照らす携帯の灯りで足元だけは見えるけれど、神社まで続く階段とは様子が少し違う。
誰も登らないからか、階段はあちこちから伸びている雑草に覆われていて石の部分がほとんど見えなくなっている。
「なーあかり」
「なに?」
「東京で一人暮らしなんて、本当に大丈夫かよ」
「突然どうしたの?」
東京の大学へ進学すると決めた時、両親とは意見が食い違って何度も何度も話し合いをしたけれど、そうちゃんは一度も反対なんてしなかったのに。どちらかと言えば応援してくれていたはずだ。
「そうちゃん?」
うしろからでは顔が見えないけれど、黙り込んでいるそうちゃんがどんな顔をしているのか気になった。
「もしかして、寂しいの? 私に会えないからって泣かないでよ」
聞いてきたのはそうちゃんなのに、なにも答えない。だから私は普段はあまり言わないような冗談を言ってみた。
きっと「泣くわけねーだろ」とか言われることを想像して。
「……そうかもな」
風や葉の音と混ざり、聞き間違えたのかと一瞬思った。
「……え?」
「いや、なんでもない。ほら、もうすぐだぞ」
すぐにいつもの明るい口調に戻ると、私の手をギュッと握る。
危ないからとずっと俯きながら階段を上っていたけれど、頂上が近いという合図なのか、上に向かうにつれて周りが少しずつ明るくなっているような気がした。
「見てみな」
そうちゃんの言葉に顔を上げると、木の葉で塞がれていたはずの頭上がいつの間にか開けていて、そこから薄い明りが差し込んでいた。
明りと言っても人工的なものではない。
「着いたな」
辿り着いた先には登山用の山の頂上のように写真をとったり休憩する場所なんて勿論なくて、昔の名残なのか、木の手すりに囲まれたこの場所は、人が五人くらい立っていられる狭いスペースがあるだけだ。当然周りには雑草が茂っている。
でも、そんなことはどうでもいいと思えた。
空を仰ぎながらその場でゆっくり回ってみる。
三百六十度、どこを見ても……。
「綺麗……」
そう呟かずにはいられないほどの光景が広がっていた。
満月まであとひと息という形の月は真上よりも少し低い位置にあって、私達に薄い明りを与えてくれている。
そして、その月明かりにも負けない光。
赤、黄色、白と、真っ暗な空にまき散らした無数の宝石が、目を見張るほど鮮やかに煌いていた。