暗くて何段上がったか分からないけれど、そうちゃんが急に立ち止まった。
止まると思っていなかった私は、そのまま勢いよくそうちゃんの背中に顔を激突させる。
「あいたた……。どうしたの?」
ぶつかってジンジンしている鼻を抑えながら前を覗き込むと、看板が立っているのが見えた。
道路工事や通行止めなどによく使う黄色い看板がここに置かれていることは、昔から知っていた。
どれくらい昔なのかは分からないけれど、以前は頂上まで登れたらしい。雨で地盤が緩んだりを繰り返した結果、私達が神社で遊ぶようになった頃には既に立ち入り禁止となっていた。
だからずっと森美町に住んでいる私達でさえ、一度もこの上に登ったことはない。
「悟朗さんは子供の頃この先に行ったことがあるって知ってるか?」
「え?そうなの?」
「あぁ、前に話した時に言ってたんだ。『頂上から見る景色は今でも忘れられない』って」
「へぇー、いいなー。私も一度くらい登ってみたかった」
看板を見つめながら呟くと、腕を掴んでいたそうちゃんの手が離れ、今度は私の右手を握った。その瞬間、私の心臓が大きく揺れる。
昔は遊びの中で何度も手を繋いだことがある。でも今は、その時とは明らかに違っていた。
「今日だけ、この先に登らせてもらおう」
「でも、入っちゃダメなんでしょ?」
「そうだけど、でも……今だけ、一度だけでいいから、登りたいんだ」
まだ見ぬその先を見上げながら、握っている手に力を込めたそうちゃん。私はそれ以上なにも言えなくなった。
今まで感じたことのない恥ずかしさと緊張に、自分がどこを見ているのかどうやって足を動かしているのか分からなくなる。
手を握るという行為がこんなにも人を動揺させるだなんて、知らなかった。
そうちゃんだからなのかな……。ドキドキと鳴りやまない心臓に心の中で問いかけてみても、返事が返ってくるはずがない。