「じゃー俺は寝るから、なんかあったら言えよ」

バーベキューが終わりみんなで後片付けを済ませると、悟朗さんは神社の奥に消えて行った。



「ねぇあかり、ちょっと向こう行かない?」

そうちゃんと真人はテントの中に毛布を敷いたり、眠る準備をしていた。

いつの間にか黒いダウンを着ている遥を見て、私はジャージの上から準備していた茶色いダッフルコートを羽織る。


「うん、いいよ」



神社の階段を、携帯の灯りで照らしながら十五段ほど下りた場所に私達は並んで座った。

白に近いグレーだったはずの石段が、黒く染まって見える。

辺りは真っ暗で、真横にいる遥の顔すら目を凝らさなければハッキリ確認できない。

風に揺れ木の枝が触れ合い、植物達がなにかの相談でもしているかのように、暗い森が怪しく騒めいている。




「明後日だね、卒業式」

「うん、そうだね」


「不思議だな、子供の頃は一日一日がとってもゆっくりだったはずなのに」

長いため息のように吐き出した遥の小さな声、それに同調した私はコクリと頷いた。


いつからこんなにも時間の感覚が変わっていったのだろう。まるで、途中から時間の流れが速くなったのではないかと疑ってしまうほどだ。


これから先はきっと、あっという間なのだろう。止まらない時の中で忙しなく回る時間を、ただひたすら走り続ける。


もっとのんびり過ごしたかったな。この森の木々のようにゆっくり時間をかけて成長していけたなら、もっとみんなとも長く一緒にいられるのに。

本当はまだ進みたくないのに、大人になるのに時間は待ってくれない。



「ねぇ、あかり?」

「ん?」

「あかりは、言わないの?」

「なにを?」


小首を傾げ左側に視線を向けると、暗闇に慣れてきた私の目に微笑んでいる遥が映った。


「自分の気持ちだよ」