私と遥は驚き過ぎて言葉が出なくて、さっきまでからかっていた男子達ですら黙り込んでしまった。


けれど真人は、その時初めて顔を上げたんだ。悔しそうに唇を噛み締めながら、そうちゃんを睨んだ。


『お、俺の気持ちなんて、分からないだろ……』

『は? なに? 聞こえないけど』


『お前みたいな口が悪い奴に、俺のことなんか分かるわけない!』

『分かんねぇな。幼馴染みとしか喋れないような奴の気持ちなんて知らねーし』


すると真人は、立ち上がってそうちゃんの腕を強く掴んだ。

いつも大人しい真人のそういう姿を見たのは、この時が初めてだった。



『なんでみんな、もっと喋ろとか明るくなれとか言うんだよ。僕は、僕はこれでいいんだ! 遥とあかりはそれを分かってくれてる。だから……いいんだ!』


静寂に包まれた教室の中、感情を剥き出しにして大声を出した真人は、瞳を潤ませていた。



『なんだよ、だったらいいじゃん』


『え?』


『それなら、申し訳なさそうに下向いてオドオドしてないで、堂々としてろよ』


全員が黙って見守る中で、そうちゃんはしかめっ面のまま言葉を続けた。


『本が好きなら、堂々と背筋伸ばして読めばいいじゃんか。本音を話せる奴がいるなら、無理してみんなに合せる必要もねぇし。それがお前なんだろ?』


思いもよらないそうちゃんの言葉に一番驚いていたのは、やっぱり真人だった。眼鏡の奥にある瞳を大きく見開いて。



その後、何事もなかったかのように自分の席に着いたそうちゃん。

そんなそうちゃんを目で追っていた真人が、私には本当に少しだけ、笑ったように見えたんだ。



それから二人の距離は少しずつ縮まっていって、いつしか真人は私達といるよりも、そうちゃんと一緒にいる回数の方が多くなっていった。

そうちゃんの側にいたからなのか分からないけれど、成長するにつれて自分に自信をつけ、顔を上げるようになっていった真人。