「不安だよね……。でも、夢に向かって一歩踏み出そうとしている遥を、私は応援したい。簡単じゃないだろうし辛いこともあると思うけど、やれることを精一杯やって、それでもダメならきっと別の道もあるよ」
「あかり……」
「もちろん今はモデルになるっていう夢に向かって頑張ってほしいけど、それで終わりじゃないと思う。将来への道は一つだけじゃないでしょ?」
私は小さく頷いた遥の頭を、優しく撫でた。
「それにね、遥は世界で一番綺麗だと私は思ってるけど、それは見た目のことだけじゃないよ。遥は心も綺麗だから。相手が男子だとしても嫌なことをする人には立ち向かっていく心の強さと、優しさがある」
遥はいつでもキラキラしていて、自然と周りに人が集まってくる魅力を持ってる。
だから私には見えるんだ。大きな舞台で、堂々と歩いている遥の姿が。
「あかり……ありがとう。でも、違うよ……本当に優しいのは……」
言葉に詰まった遥の目には、涙が浮かんでいた。それを隠すように、遥はコップに入ったお茶を飲みほした。
「遥が弱音吐くなんて珍しいよな。ぐずぐず悩まなくたって、大丈夫だろ」
いつものように軽い口調で言うそうちゃんに、鋭い視線を向ける遥。
「ちょっとそうちゃん」
そんな言い方しなくても、と思いながら私はそうちゃんのジャージの裾を軽く引っ張った。
「なんだよ。だってさ、森美町で一番綺麗だってことは、世界で一番綺麗だってことだろ?」
「は?ちょっと、なにそれ」
目を丸くして呆気にとられている遥に向かって、そうちゃんは満面の笑みを浮かべた。
「この森と川と田んぼと畑と、空と……あとそれから、とにかく全部、森美町の全部が世界で一番の場所なんだ。だからここで育った遥が森美町一の美人なら、どこに行ったって通用するってことだ」
正直よく分からない理由だけれど、そうちゃんはいたって真面目に言っているようだ。自信ありげに遥を見つめたまま、視線を逸らさない。
「颯太ってまじ適当だよね」
そう言って先に目を逸らした遥は、言葉とは裏腹にとても嬉しそうに頬を染めながらそうちゃんの肩を叩いた。
遥を安心させたいというそうちゃんの気持ちは、遥にもちゃんと伝わっている。下手くそだけれど、そうちゃんなりの励ましの言葉なのだと。