もしも全員が森美町に残ってこのまま大人になるのだとしたら、今感じている不安はなかっただろう。

でも、私達の将来はみんな別々の方向を向いている。みんな同じじゃない。だから、ただ一緒にいたいからという理由で森美町に残るという選択は私達にはなかった。

自分達で決めたことだけれど、やっぱりそれぞれ不安を抱えているんだ。



「私だって、不安だよ……」

しばらく沈黙が続いた後、最初に口を開いたのは遥だった。白い湯気が立っているコップを、両手でギュッと握っている。


「モデルになりたいから東京の美容学校に行くなんて、現実的じゃないよね……」


小学生の頃からモデルの歩き方を真似てみたり、遥の家で二人きりでファッションショーをしたこともあった。中学からは月に一冊お気に入りのファッション雑誌を買い始めて、高校に入ってからは休みの日に化粧をしたり。

だから、私には随分前からなんとなく気付いていた。遥はそういう道に進みたいんだろうなと。


なんでもハッキリ言うし、目立つのが好きだった。それに、親友だから言うわけではなくて、本当に遥は可愛い。

だから去年の今頃、『私、モデルになる!』そう言った遥の言葉はすんなり飲み込めて、私が遥の一番最初のファンだからと背中を押した。


多分、簡単なことではないと思うし、それは遥も分かっていると思うけれど、現実的じゃないなんて言い出すのは本当に不安を感じているからなんだ。

いつでも自信に満ちあふれていた遥が背中を丸め、表情を曇らせている。



「どうしてそう思うの?」

俯いている顔を覗き込むようにして問いかけると、遥はキョロキョロと視線を泳がせた。


「だって、美容学校に行きながらオーディションとか受けて、落ちまくったらとか。もしもモデルになれたとして、仕事が全然こなかったらとか。ていうかそもそも、私が美人だって言われてるのは森美町の中でだけで、外に出たら案外そうでもないのかもとか……」


まだ見ぬ世界に飛び出すことは楽しみでもあり、同時に大きな不安を抱えることになる。だから、遥の気持ちはじゅうぶん過ぎるくらい伝わってきた。