最後だからとなにか特別なことをするわけでもなく、テーブルを囲みながら、私達はいつものようにお喋りに夢中になった。



「やっぱ制服の方がよかったんじゃない?最後がジャージって」


今日は全員高校のジャージを着ている。深緑色で両腕の部分とズボンの両サイドに白いラインが入ったジャージ。


「制服は卒業式の時に着るけど、ジャージはもう着ないからってことに昨日なっただろ?つーかそもそも制服でキャンプなんか窮屈で無理だし」


そうちゃんの言う通り制服はあと一回着られるけれど、ジャージは多分もう着ない。胸元に名前が入ったジャージを今後都会で着ることはまずないだろうし、部屋着として活用するくらいだろう。


「それはそうだけどさ、今日撮った写真全部ジャージ姿っていうのもなんだかなー」


遥はお洒落が好きだから、口を尖らせて拗ねる気持ちも分からなくはないけれど、私は最後にみんなでお揃いのジャージを着られることを嬉しく思う。
体育の授業や体育祭とか三年間で散々着たはずなのに、ジャージに限らず、思い出の詰まった物とお別れするのはやっぱり寂しいから。



「卒業式の時にはさ、制服でいっぱい写真撮ろうよ」

私は笑顔でそう言い、隣にいる遥の肩に手を回した。

「うん、そうだね。全員カメラと携帯の充電忘れないでよね!」

「おいおい、何枚撮るつもりだよ」


少々呆れたように呟いてジュースを飲むそうちゃんの横で、真人はさっきから黙ったままだ。少し前屈みになりながらテーブルに肘を付き、一点をジッと見つめている。


「なんだよ真人、寂しくなっちゃったか?」


それでも真人は口を噤んだまま、テーブルに乗せている両手を結んだ。そして小さくため息をつき、ポツリと呟いた。



「本当は……不安なんだ……」



きっとそれは真人だけではなくて、そうちゃんも遥も私も、全員が心の奥に隠していた気持ちなのかもしれない。

悲しいとか寂しいとか、そういう気持ちは散々吐き出してきた。でも本当に一番感じていたことは、これから自分たちがどうなっていくのか、大人になることへの、将来への不安だった。