二人のやり取りを微笑ましく見つめていると、悟朗さんと入れ違いで数分後にそうちゃんが戻って来た。

私と違って、階段を二往復したというのに息が全然切れていないのがなんだか悔しい。


「そうちゃんなに忘れたの?」

「あぁ、まー……ちょっとな」

珍しく目を合わせず、そのままテントに向かったそうちゃんの、どこか余所余所しい態度に違和感を覚えて首を傾げた。




「なんだよ真人、俺がいなくてもテント張れたじゃん」

「あたり前だろ。俺には野生の勘はないが、颯太と違って知識ならある」


再び自信満々に腕組みをした真人の頭を、そうちゃんが軽くどついた。側にいる遥は口を大きく開いて笑っている。


三人が笑っているその顔はいつも通りのはずなのに、ふいに感じる寂しさに少しだけ胸が締めつけられる。


せめてあと一年、一緒にいられたら。半年でもいい、三人と一緒にやりたいことも行きたい場所もある。

高校に入学した頃は、卒業なんてまだまだ先だと思っていたのに。


落とした視線の先には、まだ閉じているタンポポの花びらが春の訪れを待っているようだった。


やっぱり私も、ここに残ろうかな。そうすれば……。


「あかり! 昼飯食べるぞ!」


顔を上げると、そうちゃんが左手に持っているおにぎりを少し離れている私の方に向かって差し出した。


こげ茶色の短い髪の毛と二重の大きな瞳は初めて見た時と変わらないけれど、白い歯を見せて笑うそうちゃんの目尻には、少しだけしわが寄っている。

九年間で、沢山笑ったもんね。最初は眉間にしわを寄せてばかりだったのに。


「うん、食べる!」