結婚するにあたって見せられた、高塚の家系図を思い浮かべた。久人さんと樹生さんは、祖父同士が兄弟だ。現当主であるお義父さまの、亡くなったお父さまの弟の息子が樹生さん。

久人さんと樹生さんの父親はそれぞれ一人っ子で、久人さんが来なければ、樹生さんは次の代の筆頭になる可能性もあったはず。

私の考えていることがわかったのか、樹生さんがにやっと笑う。


「俺はね、家とか血統とか、くそくらえと思ってるから。まあ、それはうちの親父も、伯父さんも、同じだろうけど。だから久人が来て、しめたと思ったよ」

「養子をとってまで、後を継がせる必要があったんでしょうか?」

「そこはねえ…」


少し言いにくそうに、樹生さんが眉間に力を込める。

ランチタイムの終わったカフェは静かで、クラシックのBGMが流れていた。


「伯父さんたちは、やっぱり、愛情を注ぐ対象を求めてたんだと思うよ」

「息子さんのことですか」

「結婚前に、桃子ちゃんのほうでも久人の身辺調査をしたんじゃない? そのとき、養子であることは浮かび上がってこなかったでしょ」


ほうでも、ということは、高塚側でもしていたのだ。さぞかし徹底的に調べられたに違いない。

私のほうは、千晴さんが個人的興味で調べた、あの程度だ。だけどたしかに、久人さんが養子であることは、あの時点でわかっていてもおかしくなかった。


「久人はね、伯父さんたちの本当の息子と、生まれた年も月も同じなんだ。この意味、わかるかな」

「年も、月も…」


少し考え、私は鳥肌が立った。

ある夫婦に子供が産まれる。二年たてば子供は二歳に、五年たてば五歳になる。そして十年後、その夫婦には当然のように、十歳になる子供がいる。

だけどその子は、"別人"なのだ──…。

手が震えて、グラスの中のアイスコーヒーが波立った。


「偶然、ではなく…?」

「わからない。だけどその偶然のおかげで、戸籍でも調べない限り、"息子"が途中で別の人間になっていることには、誰も気づかない。実際、経済界でも久人が養子だなんて知ってる人は、いないよ」

「でも、それじゃ…」