『ハル、もうほぼ一文無しだろ?』

「ご、530円あるよ・・・!」

『・・・ばか。もう何処になってもワガママ言うなよ』

「うん、言わない」






はあ、と溜息をついたアオは鼻息を荒くする私を一瞥してからは口数が少なくなった。


そうしてそこに辿り着いたのは夜の9時過ぎ。学校先のホテルにあまりにも近いと色んなリスクがあるので横浜駅周辺になったらしいのだが、私はそのホテルの前で固まる。



アオは予想内の私の反応に面倒そうに舌打ちを零す。私を置き去りにして先に入って行こうとするので必死にその腕を両手で掴む。





「ちょちょちょ、ちょっ、ここって・・・!」

『仕方ねえだろ。俺だって持ち合わせ少ねぇし、格安でいきなり泊まるってなったらこういうとこしかねえんだよ馬鹿』

「で、でも私達未成年だし!」

『私服だからわかんねえよ。もう俺はここに泊まる。いやならハルは外で凍えてろ』





はあ、と呆れたような溜息を零すアオ。私は再度その光り輝くでっこでこな看板を見つめ黙り込んだ。アオの溜息がまた一つ。





『俺と来たのはそういうのでカウントしなくていいから。ただの泊まる場所だと思えばいいだろ』




ぽん、と優しいアオの大きな手が頭に乗った。綺麗な顔が私の目線を合わせて落ちてくる。まるで小さい子を諭すような優しい声。