『いだっ!なんでだよいってぇーばーかばーかばーかはげろばーか』
「はげるのはお前だもう危ないくせに」
『えっ、や、やめてそういうこと言わないで』
うわ、と頭を抑えるアオに思わず笑ってしまう。勝部先輩に振られた日、わんわん泣いた次の日に自然と笑えたのは、紛れもなく目の前のアオのおかげだ。
どうしてアオが私にそこまでしてくれたのかは、確実にはわからない。けれど、きっと、友達以上の特別な関係だからかな、なんて思ってしまう。それは恋愛対象外のものだけど。
アオとは、一生きっと、この関係だ。
『あ!やべ、アイツら会計してる行っちゃう』
「げっ、ほら早くそれ口に突っ込んで」
『えっ』
「早く!」
私は躊躇うアオの口の中にフォークでぶっ刺したパンケーキを容赦なくぶち込む。もう噛めないほどに口の中をパンケーキまみれにされたアオは涙目である。
そのまま会計するアオに、店員さんも通り過ぎるお客さんもくすくす笑う。アオがイケメンだからという理由以上にリスのような頬が事件だからだ。
お会計を終えたアオが出てくるのを待って、見失わないようにアオの前を歩く。
「ねえなんの映画観るって言ってたの?」
『・・・・・・』
「夏子はサスペンス観たいって言ってたけど」
『・・・・・・』
「無視すんなよ」
応答がないことに腹が立って振り返る、が。
「あ、喋れないのかごめんごめん」
そこにはどんぐりを詰め込みすぎたリスのような頬をしたアオ。必死に口を抑えて涙目でもぐもぐして私を見つめていた。
ふはっと吹き出しながら笑ってアオが食べ終わるのを待ちながら夏子達を尾行する。やっとこさパンケーキを飲み込めたアオは私の隣を歩く。