きっと朔は知りもしないんだ。

この世界には望まれずに生まれてきた人間が存在することを。

愛されることなく疎まれるだけの人間が存在することを。

「たからものだから」

橙色の光を背負った朔の影が私の足元まで伸びてくる。

本物とは似ても似つかない真っ黒な影。

だけどこの汚れた世界でその影は本物よりもリアリティがある。

夕日を背負った朔よりよっぽど。