それはたまたま運悪く聴こえてしまっただけの愚痴。
その人も十分優しかったのだろう。
だからこそ僕が寝たのを見計らって旦那さんに愚痴をこぼしたんだとは思うけど……。
それでもその言葉は母さんを失ってすぐの、不安で仕方なかった僕の心には刃物のように突き刺さった。
僕はその家を飛び出そうとした。
そうしなかったのは数日前、ばあちゃんちへ行ったからだ。
母さんの墓参りからの帰り道、たまたまあの電柱でハナを見かけた。
ハナは自信満々な顔で歩いていた。
真っ直ぐ前を向いて、両腕を大きく振って、元気いっぱい歩いた。