そう思うのになぜかその場を動けなかった。 私の腕を掴むそいつの手には力は全然こもっていない。 逃げるならいまなのだ。 なのにどうして? 私はそいつの腕を振り払えなかった。 少し癖のある柔らかそうな髪が吹いた風に揺れている。 色の薄い瞳でこんな私を見つめている。 抜けるように白い肌に夕陽が反射して眩しい。 「ねえ、何がくだらないの?」 まだ言ってたのか。