『歳を取るとそれができなくなる』
父さんより一回りは若いだろうその人の後ろ姿に、だけど父さんの言葉を思い出して声を出さずに笑ってしまう。
そうだ、俺にはまだまだ体力がある。
だから変化だって受け入れられる。
大丈夫。
物足りなさを感じながら、でもちゃんとそれを受け入れて、丘までの坂道を一気に登った。
登りきった先にはいままで通り一本の木が立っていて、他に誰もいない静かな空間があるだけだった。
いつも通り自転車を木の側に止めて、今日は息が乱れてないから空を見上げた。
深い深い黒の空に、シヅキと出会った時より丸みを帯びた月が明るく輝いている。