「何?」
「いや、歳はとりたくないな」
「どうして?」
「昔は子供の成長が嬉しかったのに、いまは少し寂しいとも思ってしまうんだ」
「ふーん?」
「変化を受け入れるのにも体力がいるんだ。歳を取るとそれができなくなる」
父さんはまっすぐと前を向いて、独り言のように呟いていた。
「春人はまだまだこれからなんだな。羨ましいよ」
まだまだこれから。
その通りだ。
俺にはまだまだこれから、色々なことが待っている。
人生八十年で見積もってもまだ五分の一しか生きていない。
永遠とも思えるその時間は、だけどきっとあっという間に過ぎていくんだろう。
そのあともぽつりぽつりと会話を交わしながら、駅前の自転車屋までを父さんと二人でゆっくり歩いた。