「ふふ」
母さんが小さく笑いながら「そんなの簡単なことじゃない」と言った。
「遠くに行っちゃったんだよ?簡単なんかじゃない」
「簡単よ」
そういう時はね、穏やかな声のまま、当たり前のことを説明するように母さんが続ける。
「言えばいいのよ」
思わず母さんの顔をじっと見つめる。
だって言ったばかりだ。
遠くに行ったって、会いにいけない場所に行っちゃったって。
「遠くに行ってしまったなら会いに行けばいい。会いに行けないなら手紙を書けばいい。それもできないならその子を想って、心の中で何度だって言えばいいのよ」
「心の中でなんて、いくら想っても伝わらないよ」