「私って幽霊でしょ?だから人にぶつからないようにするの結構大変なんだよね」

「すり抜けてただろう。避けなくてもいいんじゃないか?」

「だめ。なんとなく嫌なの」

「嫌?」

「うん。ああ、私って本当に幽霊なんだって、死んじゃったんだって思っちゃうから」

月明かりに照らされたその顔はとても柔らかくて、とても切なそうだった。

「もっと生きたかった?」

そんなの聞かなくても分かる。

生きたかったに決まってる。

死んで良かったなんて思うはずがない。

だけど聞いてあげたかった。

出会ってからずっと、シヅキは悲しいとか辛いとか、泣いたり嘆いたりとかそういうところを一切見せたことがなかったから。

悲しいなら悲しいと。

辛いなら辛いと。

泣きたければ泣いて、嘆きたかったら嘆いて、我慢なんかしないで吐き出させてあげたかった。