目の前にいるのは小さい時から知っている人なのに、なんだか知らない人のように見えた。
「じゃあまたね。誕生日まであと何日もないんだからちゃんと考えといてよ」
「分かったよ」
「じゃあ春人くん、またね」
「はい」
「春ー!ちゃんと考えといてよー」
先輩に手を引かれながら大きな声で念を押して、二人はあっという間に人混みの中に紛れて見えなくなった。
広い道路に点々と灯る光の中を自転車で走る。
たまにすれ違う車のライトが俺たちを照らしては通り過ぎ、その後はまた薄暗い道を小さな灯りに沿って家へと向かって走る。
「シヅキ?」
角を曲がって人通りが少なくなったのを確認してから名前を呼んでみた。
いつもは静かにって言ってもお喋りなシヅキがさっきから全く口を開いていない。
帰りの電車でも凪に会った時も一言も喋っていなかった。